2024年06月13日

やっと巡り会えた真の師匠

 

オペラ歌手・吉田真澄

学生時代はドイツ歌曲やオラトリオなどを歌っていました。卒業してからオペラの役をいただくことが多くなり、イタリアの音楽を本格的に勉強しはじめましたが、イタリア語の発音やイタリアオペラのスタイルがなかなか体になじみませんでした。自然に歌いたいけれど、どこか上手くいっていない。試行錯誤しながらいつも悩み、歌い続けていました。そうして半ば諦めそうになっていた時、先生に出会いました。私の悩みがわかっていたかのように、ひとつひとつ的確に具体的に教えてくださり、私の中にあったたくさんの問題は解決していきました。日本人とイタリア人の違いを理解しながらの発音指導、国や作曲家ごとのスタイル、慣習の違い、オーケストラ伴奏をとらえながらのフレーズの作り方、なにより美しい声とはどんなものか、いつもひとつの答えをもち、それを教えてくださいます。ポルタメントのつけ方、トリルの入れ方、フェルマータの長さ、拍の取り方、子音の入れ方や音のスピード、ささいなようで蓄積していた長年の疑問が解決していきました。また、演出家の視点から役の心、作品の心、演技の仕方、舞台の美しい見せ方を教えてくださるのも勉強になります。
そして、私の一番の課題も教えてくださいました。「心が足りない」と常々言われます。すごく考えているのにどうしてだろう、と最初は理解できませんでした。しかし、技術や人の演奏をなぞるばかりで、どう歌いたいのかというところまでいかないのだとようやく気が付きました。ドイツ語や日本語、英語を歌う時のように、自然に心が、体が、口が動いていないことに気が付きました。私のイタリア語の歌には、私自身が存在していないかのような時がある、それに気が付くことができました。そしてそれに気が付けたなら、それを克服して歌えるようになりたい。そうした希望がうまれ、またオペラに向き合う力となっています。
先生はいつも愛情深く、歌、人を育てることに親身になってくださいます。本番や歌に向きあうための心のあり方なども時々話してくださり、ずっと一人でもがいていた私の心の不安や頑なな真面目さが和らぎ、ステージに立てるようになってきています。
これからも多くのことを学ばせていただき、自身を磨き続けながら、お客様の前に立っていきたいです。